師走の村上三面川に 鮭がたゆたう。
地元の鮭師さん達が集まる漁場である川原に車を停め、降りる。
足元にもあそこにも、数え切れない数の鮭が放置されている。雄鮭や産卵が終わった雌鮭は釣られたまま、腹子があった雌鮭は腹子を採られた後で。
それらはこの一帯の…カラスやカモメや猛禽類、猫やテンや狸等の…野生動物達を潤し、また川原の気温は大変寒い為、腐敗はせずゆっくり溶解し この大地の栄養分となって行く。
また、川の中にもたくさんの産卵後、または釣られた後の鮭達が白くなってゆらゆらと揺れている。これらは地上に残された鮭よりも更に時間を掛けて川の栄養分となって行く。僕はそんな日本離れした光景に、アラスカのユーコン川を、アイダホのサーモン川を見る。
少しだけ上流の岸近くの水が、産卵中の鮭の背ひれで何度も「モコッ、モコッ」と盛り上がる。
老鮭師が慎重にそこにテンカラ針を投げた。
しばし流して「グイッ」と合わせたが、今回は掛からなかった。
僕は冷たい川の風に体を強ばらせ丸めているが、老鮭師は全く動じずに強そうに、何度もテンカラを「ほり」(鮭の産卵床)に向かって投げていた。