焼ける。
300度で燃えるオーブンから、ジュージューいう網脂ハンバーグを取り出した時、ツカミ(熱い器具を持ったり掴む時に使う、専用の雑巾。)が少し指からズレて、熱く燃えるパイ皿を親指で掴んでしまった。親指から肉の焼ける音がした。(ギャーッ)と声を出したい、または反射的にパイ皿を放り出したくなるが既にパイ皿はオーブンの中から外だ。投げればハンバーグを落とすしかないし、声を出せばディナーコースでたくさんのお客様方に聞こえてしまう。このハンバーグを楽しみにいらした母娘様に、熱くて旨いハンバーグを届けないといけない。「熱い」事を意識の外に置いて、パイ皿をそうっとテーブルの上に置いた。ハンバーグを皿に置き、煮えるデミソースを掛ける。親指の腹がすぐに膨らみ始めた。が、こんなのは火傷じゃない。
この間、僕が考えていたのは何故かギャロットだった。…痛みに負ければ命は無い。戦場の白兵戦闘においては、原則だ。
至近距離での混乱した肉弾戦で、自分目掛けて飛び込んで来た敵のナイフの刃先を思わず掴んでしまった時、「痛い!」と言って手を離せば次に生き残るチャンスは無い。また、腹に刺さり始めた敵のナイフを気にせず、それ以上の力と生存本能で敵兵の胸にナイフをブチ込まないと…そうしてイギリスSAS所属のプレイザー特務曹長やオーストラリアSAS所属のワイリー伍長達は絶望的な、実際にあった中国領内での極秘暗殺作戦「ファイブ・フィンガーズ」(「ターゲット1!北ベトナム、ボー・グエン・ジアップ将軍! 中国、登小平!北朝鮮、金日成!」)を生き延びる事は出来なかった。
ギャロット…ベトナム戦争中、特に米軍特殊部隊グリーンベレー、その中でも「首狩り部隊」や「LRRP」(ラープ、ロング・レンジ・リコネサンス・パトロール、長距離偵察斥候。)達、主にサーチ&デストロイ(索敵と殲滅、対象の敵部隊は無く、長い期間、敵の前線向こうの領地内に潜入してジャングルで生活する。発見、または遭遇した敵を区別無く殲滅する危険な任務。)につく兵士が好んで使った武器。ピアノ線を3本編みし、両側の端に片手で握る柄が付いている。以前アメリカの軍用品放出ストアで、カタログに鋭い鋼線ワイヤー製のものも見た。特に隠密行動を要する時、ギャロットは非常に有効だった。敵の背後からギャロットを首に巻き、柄を力一杯広げると首の骨を残し首が切断される。さらに力を入れると骨さえ斬れてしまう。一瞬だと何の音(声)も出せない。映画でよくある「後ろからナイフで首の前を切る」では、「教会の聖歌隊の大合唱の中にいても、それを黙らせてしまう程の大きな悲鳴」を上げてしまうのだ
。グリーンベレー所属モロスコ上等兵は幾度もそうして味方の窮地を救った。 …場違い甚だしいのだが、どうしてかそんなギャロットの話を思い浮かばせていた。実際はそれは一瞬で、すぐ次のオーダーに向かって行った夜。I done。今夜は終わった…。ありがとうございました、おやすみなさい(写真はMEG。今、ノリにノッている。7月4日、パリで20000人の前でライブ。8月8日、サマーソニック09にも。すげー。)