熊の冬眠穴の近くには。
自分の周囲に細心の注意と警戒を張りながら、この山の佛穴(風穴)まで登る。
思い出しても緊張するが、人の気配は全く無く、胸の高さにしじゅうクモ糸が張っている。それなのに下は何かが歩き、踏まれた跡が山の上へ続く。
最近ここを歩いたのはタヌキ、アナグマ、キツネ、テン、カモシカ、それと熊くらいか。
斜面の途中、小さな沢筋を挟んだ向かいの深い笹薮の中に立つ木の根元近くと中間に不自然な皮の剥がれた痕があるのに気付き撮影した。
僕の学習した限り、こうした痕(木の根元近くの皮剥ぎ)は、熊が冬眠穴の近くの標として付けるもので、マタギ達の知識に則るなら周囲20〜30m内に熊穴があるそうだ。だからマタギや熊撃ち達は秋にこの標を探し、次に熊穴を見つけておき、早春に冬眠明けすぐの熊を撃った。すると熊の胆は最大限に大きくなっており、熊の胆の価値、熊の換金額も最高級だったそうだ。滅多に夏に熊は撃たないようだ。第一、山が緑に隠される夏に緑に隠れた熊を見つけるのは難しい。
ただ、熊は冬眠穴は1度使うと翌冬どころか10年近く使わないそうなので、この木の周囲に冬眠穴があったとしても、最近使ったものかまでは肯定出来ないな…と考えながら、この木と笹薮斜面を見ていた。