チビッコぐまの命からがら。
くっきりと、何本もの熊の爪痕がホオノキに付いています…
爪痕の幅にして僕の掌に収まる幅。成獣のものでは無く、まだ子熊の爪痕です。 僕は腕を上げて、その痕をじっくりとさすりました。
掌からそこで起きた事のイメージが入って来ます… この晩夏か秋の早朝…
母熊を亡くしたか、はぐれた1頭の子熊は不安げに山中を彷徨していました。その子の近くに不幸にも雄の成獣熊が現れてしまいました。
雄熊は子熊を殺し食べるのが熊の常識です。
勿論子熊は本能的に怯えて逃げ、近くの太いホオノキに飛び付きました。本来ホオノキには熊の食料になるものは成りません。だからホオノキに登るには採食以外の理由があります。大きくなった成獣の熊は北海道の大型ヒグマ同様、木登りが苦手になって行きます。だから逃げる子熊は木を登ってエスケイプする事が判明しています。
ですが、まだ小さな子熊では太い幹を上手に登れません。 必死に幹の上を目指しますが、腕力も弱くズルズルと登るものの爪が食い込まず滑り滑り登る形になってしまいます。その下では、成獣熊が近づき幹に前肢を掛けて立ち上がり子熊を掴まえようと…
…と云う光景が湧きました。
爪痕の小ささから、チビッコぐまの可愛さが容易に想像出来ました。
彼が何とか無事を得た事を心から願いながら、さらに上の鞍部へ登って行きました。
ここはベアカントリー。 様々な野生の物語が断片を残しています。