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(2014-5-21)

現場では。

写真は事故現場から荒川上流に向かい、車で3分程の小岩内集落、薬師山登山口付近に広がる畑。双眼鏡を覗き、熊痕を探しました。
でも現場では、熊出没の恐怖(地元のおばあちゃんが「怖くて山沿いの畑に行けんよー」とおっしゃってました)より更に日常的に脅威なのは「猿」の群れの出没と農被害でした。 電気柵が張り巡らされています。新潟に限る話ではありませんが、集落の高齢化と過疎化が進み、人間活動のエネルギーが弱くなると、途端に野生動物達の平地への侵攻が顕著になります。どんな動物も、本来は山岳よりも平地の方が暮らし安いからです。 今日の日本の典型的なケースを目撃しました。




(2014-5-21)

要害山

要害山の山腹の杉林。放置されて数十年。
昼12時と言うのに林間は「真っ暗」。その周囲も湿った笹藪と暗い雑木の森。 付近には「熊出没注意」の札ばかり。 さすがに恐ろしく、踏み込んで入れなかった…。




(2014-5-21)

事件現場付近。

お話を伺いに声を掛けたおばあちゃんが色々と教えてくれました。4月末の事故現場は信じられない程 集落近くの川の土手で起きた事を。 「まだ血の痕がしっかり残ってるのよ。まぁでも今日の雨で消えてるかなぁ…」と。 現場に行き合掌をしましたが、痕跡は全くありませんでした。
それから先日捕獲された場所を教わり、周囲を散策しました。事件もあったし熊も捕獲されたり至る場所に警告書が張り出されていたりで、間違い無く緊張感が山裾に充ちています。遠くに水田を耕す農家の男性が一人だけ見えるだけで、全く人っこ一人いません。 「これより先は熊の領域である事を認識し、各自注意をして下さい」の1文を読み、昨日から用意していた装具…MTBヘルメットとゴーグル、グローブ、胸部と脊髄と肩を保護するバイク・プロテクターを装着し、熊避け笛をピーピーピーピー吹きながら、30分ほど森を奥に進みました。本当に滑稽な姿だと思います。が、誰もいない森は怖い、そして深く暗い…。勘違いや考え過ぎではありません。完全に複数の熊の領域です。肌と感覚が全身に警告を告げます。「ベア・カントリー」に入るには意識変革と自衛が欠かせません。
(必ずどこからか見られてるんだろうな…)と感じながら、藪の近くには行きません。北海道のヒグマのデータでは、箱罠に1頭の熊が掛かる確率は4分の1頭から5分の1頭である事がカメラトラップで判明しています。つまり今回も箱罠の中のオトリ餌(今回はハチミツ。北海道では鹿肉が使われる)に掛かるまでに、もしかしたら3〜4頭の違う熊が来ていた可能性があります。箱罠は熊を呼び寄せる効果もあるのです。問題を起こした個体ではなく捕獲された熊は、よくこの分野では所謂「冤罪くま」と呼ばれます。冤罪くまを幾ら射っても、また後から後から次の若い好奇心旺盛で冒険好きな若熊がやって来るそうです。本当は問題を起こした個体を山中までも追跡して撃つのが望ましいのですが、現代はこうした狩猟が出来る 所謂本当の「熊撃ち」は皆無に等しいらしく、「箱罠」頼みになっているそうです。
本当に集中して過去の熊による人身事故を沢山分析しましたが、熊の攻撃で最も強く恐ろしいのは強力な前肢による「初撃」です。これを不意に喰らうと重大事故になります。ひっかいたり噛みつくのはこの後です。熊がいきなり「かぷり」と噛みついて重大事故になる例は少なく、万が一の接近遭遇時にとにかく不意に「初撃」を頭部と顔、首に喰らわない、これが大切です(大正15年の三毛別羆事件で340kgの巨大羆に頭をかじられたヤヨですら、その後は無事に生存した)。だからヘルメットを被ったのですが、はた目には変人ですね。
奥さんや家族にすら「面白半分に」と思われるのですが、こっちは全然違うんです。面白半分でこんな怖い思いはしません。
野生動物好きの親父の蔵書には「日本狼」と「月ノ輪熊」関連が多々あり、僕も良く読んでいたり、新潟の山に岩魚釣りに入っていたりで興味は大きかったものの、都心で生まれ育った自分には「熊」はやはり遠い遠い存在でした。
それが今回の事故が村上にある家から車で5分も掛からない場所で起きた事、勉強してみたら今は日本近代史上でも最も月ノ輪熊が増えている時代である事を知り、何かに呼ばれるように今回の山々を見ています。安全で快適な新潟市にいても気付くとつい山と熊の事や、「早くまた行きたい…」と考えていて、(これがCalling of the Wildなのか…)と感じ入っています。